『干戈の災厄』guerra-guerra-guerra
アルカディアの荒野。
雨が地に叩きつけられる音。
銃が弾丸を放つ音。
そして、赤子の泣く音。
三つの音が鳴り響くなか、一人の女性が吐き出すように声を絞る。
「ど、どうかお願いします! この子だけは……この子だけは!!」
その影が地面へ伏してまもなく、三つの音は二つになった。
時と場所は変わって、 ここはソリディア。
星の力の固形化物であるクリスタルの採掘で有名な星であった。 有名であったがために、目をつけられたわけだが。
この星がソリディアと呼ばれるのも、この日で最後であった。
『アーハハハハ』
最後へと向かう星に、笑い声が響く。もっとも、この声を耳にした者がいたのかどうか。それはわからない。
『ハハ、ハハハハハハ』
この星の最後が、愉快なものであったのか。それは笑い声の主にもわからない。彼が笑うのは、笑わない理由を持たないからであった。
自らの手で自らを破滅に導く生物というのは実に不思議な存在のようであったが、彼にとってそれは当たり前と変わらない。
空が黒いのと同じで、 それがそういう性質を持っているだけのこと。 時が流れると植物が華を咲かせるのと同じように、時が流れると華が枯れるのと同じように、時が流れると人は争い、滅んでいく。 今まで見てきたのがみんなそうだったのだから、否定する理由もない。
その時、一発のこぼれ玉が、彼の半身を貫いた。
『アー』
思いがけない出来事に笑い声が止んだ。はじめて感じるその感覚に、集中する。
なんだろう、これは。 さっきまで半身があった場所から、強い感覚に襲われる。 気持ちの良いものではない。 少ししてから、自分がこの感覚を拒んでいるのがわかった。
しかしそれ以外に変化はなかった。少々この感覚が気になるが、どうしようもない。時間が過ぎてどうなるか試してみるしかない。もしこの感覚が一生付きまとってくるなら 鬱陶しい限りだが、どうなるかなんてわからない。
とりあえず、この星は今日終わるのだろう。
しかしこの生物たちは 再び何処かから湧いてくる。そしてまた争い、滅びる。
この連鎖に終わりは来るのだろうか。
気になる。
もし来るとしたならば、その時は完全に滅んで、終焉を向かえた時であろうか。
ならば、試してみよう。 きっと何処かには、自分と同じ終焉を求める者がいるだろう。 時間はきっとまだたくさんある。 この感覚が消えるのを待ちながら、探してみよう。
アハ、アーハハハハ
笑い声が響く。
『Black Belief』 崩落のアルカディア
侵入者を知らせるサイレンと、無能な兵士共の無線通信が鳴り響いていた。 しかし、どの音も自分には届いていないかのようだった。
アルカディア帝国、その軍事施設の一室。
ついに宿敵でもある奴等がここへ乗り込んできたらしい。丁度私の訪問に合わせての作戦だ、この日のために綿密に計画されていたのだろう。 正直なところ意表を突かれたのは確かだが、私の思考は極めて冷静に動いていた。 ふっ切れた、と言えばそうなのかもしれない。この危機的状況にも関わらず、私の口角は静かに上がる。巨大な窓に薄く映り込む自分が、それを教えた。
灰色の空を見ながら、強いスパークリングの酒を喉に流す。
「前祝いだ、サクラ。」
この身体になってから、大分味覚は衰えた。だが、それも我が目的の達成と思えば なんら大したことでも無かった。 ゆっくりと瞬きをし、その時に僅かに漏れる機械音に耳を傾ける。 目的達成のためには生身の身体では酷く脆く、またその寿命さえ短かった。
そしてその目的への大きな一歩を今日踏み出す。 奴等の計画は綿密なものであったが、今日というこの日が選ばれたのは偶然でしかなかっただろう。それ程までに運命とは滑稽なものか、と再び口角を上げる。
残った酒を飲み干し、部屋を後にする。外は更に五月蝿かったが、少しも構うことなく通路を歩き続ける。
ソリディアでの計画は失敗に終わったらしいが、 クリスタルは既に必要量を満たしていた。
生体認証システムに瞳を開き、扉を開く。 中に入り扉が閉まると、 この場所だけはひどく静かであった。
機密格納庫。ここに入れる者はごく僅かであり、またここでの開発を知る者も殆どいない。
『スターファウンテン計画』…名前だけ聞くと、とてもファンシーだろう。 このアルカディア国の祖とも言える民族、「星の使者」と呼ばれた彼等が作り上げた”星の泉”を再び蘇らせようというものである。とはいえ、星の泉に関する資料は少なく おそらく今自分が作り上げるものは全く別の物であろう。 だが、この泉は私の目的を達成させてくれる。 星の力を自由自在にコントロールすることができるこの泉があれば、
「止まれ!アートルム帝!!」
背後から、女の声。 ゆっくりと振り返ると 銃をこちらに向けた女が立っていた。その顔には、見覚えがあった。
「…確かブランシュ・ケオ・ティラトーレ教官、だったか。 ……成る程。奴等に情報を流していたのは貴様か。」
「Right. フルネームで覚えてもらえてたなんて光栄だわ。…でも、気付くのが遅すぎたようね。」
「遅すぎた? それは そっちの方じゃないのか?」
「さあどうかしら。 あの数分で、この帝国も、あなたも、全てThe ENDよ。」
その言葉を 聞いた瞬間、笑いがこみ上げてきた。 銃を向けられているにも関わらずその声を漏らす。
「…何がおかしい。」
奴が真剣な顔で問い詰めてくる。
「その程度で、この私が終わりを迎えるとでも? 」
そう答える私に根拠などなかった。ただ、確信はあったのだ。私はこの程度では終わらない。終わるはずがない。 たとえ貴様らが生まれ変わろうとも 私は私であり続ける。そう確信していた。
「だったら 今ここで…!」
ブランシュが構えていた銃を発砲する。が、こちらも瞬時に腕をシールドに変形させ防ぐ。
「ちっ……でも、もう」
「もう、何だ。 言っているだろう、私はこんな場所では死なない。」
シールドを解除し、身体を後ろへ傾けるように、倒れる。ひどく時がスローモーションになるのを感じた。 が、走馬灯なんてものはない。
その刹那、全身に熱を感じる。
その身体が泉に触れる前に、私の意識は消えた。
-創造神話- First・Archipe
これは世界樹の、ある一本の枝のお話。
ラタトスクによって創られた創造神の一人、First・アーカイプ。
Firstは枝に現れると その大きな翼を広げ、それをはばたかせ風を吹かせました。
その風は空間を広げ、時間を刻み、物質を創り、命を育んでいきました。 こうして、世界が創られたのです。
しかし、その世界はまだ未熟です。まだ足りない成分がたくさんあります。
そこでFirstは再び翼をはばたかせました。すると、Firstの力のこもった羽がどんどん抜け落ち、その羽からから何人もの神が生まれました。それぞれの神に一つずつの役割を与え、世界を更に育てさせたのです。
こうして、少しずつ世界は創られていったのです。
バグ・ドヴァリン
世界樹に巣食い、世界を蝕むバグのうちの一種。最も基本的な種であり 他のように尖った特徴はないが、捕蝕、寄生など広くこなすことができる。一匹でも並みの戦士では太刀打ちできない程の強さを持ち、群れをなして襲い掛かって来れば世界の一つや二つ容易く破滅される。
平たく伸びた二本の腕の様なものは「触腕(蝕腕とも)」と呼ばれる器官であり、そこにある赤いラインは「蝕腺」と呼ばれる。蝕腺からは未知の成分が分泌されており、近付くモノを紫色の粒子のように分解し、消滅させる。この作用は「蝕み」と表現され、恐怖的であるが、同時にその粒子の輝きは美しいともされる。また、蝕まれたモノはその翅に混沌と映り出される。一説では翅が消化器官の役割をしているのではと考えられてもいる。その他では、触腕の付け根の部分の硬く固まった部分は「蝕袋」と呼ばれている。未知の成分は蝕袋から生成されるのではないかとされているが、これも実際のところは不明。
また以上の事柄はミミルの研究によるものが殆どである。その他のバグの研究が少ないのは、バグが発見された世界の殆どは蝕まれ、消滅してしまったためである。
「…………………」
主
8の連鎖空間にたった一人存在していた人物。世界樹の苗、そしてラタトスクを創り出し、ラタトスクにその苗を育てさせた。その生い立ち、目的などは不明。また”主”と呼ばれてはいるが本来の名前が別にあるという。しかしそれさえも不明。一応、本人曰くはただの人間だという。基本的に世界樹の世界に干渉する事はなく、外側から見守っている。
また、実際に披露されることは殆どないが、相手の能力をコピーし、自分のものとする”イミテーション”の能力を持つ。
「神様なんてそんな大層なもんじゃないよ。僕はただの人間さ。」
「君達なら、この連鎖を断ち切ることができるんじゃないかってね。楽しみにしてるよ。」
「君ならここに辿り着くと思ってたよ。」